2020 聴講レポート

「こおりやま街の学校」3時限目 藤本遼さん

“郡山”を共に楽しむ仲間を増やし、魅力的なまちづくりについて学ぶ「こおりやま街の学校」。

毎回30名の本校生と約100名の聴講生が、さまざまなジャンルのプロフェッショナルとともに郡山との関わり方を模索しています。3時限目の講師は株式会社ここにある(https://coconiaru-inc.com/)の代表で、“場を編む人”の肩書きを持つ藤本遼さんです。

 

 


 

関西を拠点にイベントの企画やコミュニティデザインを数多く手がける藤本さん。「場づくり」と「余白の見つけ方」をテーマに、株式会社ここにあるが実践している方法論をお話しいただきました。

藤本さんが考える「場づくり」は単にイベントやワークショップをすることにとどまりません。「想定外のエピソードが生まれるのが場づくりの価値」ととらえ生態系(!)ごと再編集していくという壮大な視点が盛り込まれています。

 

 

「「場づくり」には3つのレイヤーがあると考えます。まず狭義的な場づくりは、イベントやワークショップを不定期で繰り返すようなこと。場の内部をどうするのかが主題になってくると思います。広義の場づくりはコミュニティ同士をつないでいく段階です。当然つながりやすいものとそうでないものがあり、見えない壁によってリーチしにくいコミュニティもあるので、そこに対してどういうアプローチをするか。自分の気持ちがいい領域や分野で場づくりをやっていないかが問われると思います。そして最広義の場づくりは、人間だけじゃない、植物や動物、または生きていない何かとの関係性の再構築。僕がこれから挑戦していきたいことです」

また、「場づくり」においては表現を担うアーティスト型や、課題解決を目的とするコミュニティデザイナー/ファシリテーター型など4つのタイプがあり、それぞれが重なり合いながら存在していると藤本さん。「自分がやるとしたらどこに当てはまるか考えてみてほしい」と受講生に問いかけます。

 

 

続いて、これらをふまえ藤本さんが実践しているふたつの事例の紹介へ。

ひとつめの「ミーツ・ザ・福祉」(https://coconiaru-inc.com/project/235/)は、2017年から尼崎市で行っているイベント。「障がいがあってもなくても楽しめるフェス」をコンセプトに、行政やNPOも巻き込みながら新しいかたちの障がい福祉を模索しています。

 

 

ふたつめの「カリー寺」(https://coconiaru-inc.com/project/236/)は、文字通りお寺でカレーを食べることをメインに、地域の人々が協力し合いながら運営されています。2016年の第1回目以降どんどん輪が広がり、全国各地のお寺で派生イベントが生まれたり、イベントの収益を地域でのプロジェクトや取り組みに還元する「カリー寺基金」まで誕生し盛り上がりを見せています。

 

 

どちらも、日常の中で藤本さんが感じた違和感やアイデアを発端に、さまざまな人とつながり、既存の仕組みやプロと協力し合いながら実績を積み重ねている企画。参加したメンバーからは「自分らしくいられる場ができた」といった声も聞かれるそう。

 

そんな藤本さんがさまざまな場面で意識しているのが“余白”。たとえば“会議における余白”なら、発言しなくてもその場にいていいよという意味で休憩エリアを設けるなどをしています。どのような場においても余白を考えるのは大事であり、そのためには余白の逆(ルール、制度、常識、固定概念、効率、生産性など)を考えていくと見えてくるのでは、と話します。また、自分ができないからこそ誰かが貢献してくれたり他者との関わりが生まれるという意味で、「できない、は最高のプレゼント」とのこと。それを他者と共有すること、互いに認め合いながら生きていくことも余白のあり方だと教えてくれました。

 

「何かを始めなきゃいけないなんてないし、“やってもやらなくても尊いんだよ”が前提にあるのが大事。でももし何かやってみたいなら小さくても少しずつ始めるのがいい。たとえ人が集まらなくても中途半端でもダサくてもいいから」

 

そんな懐の深いメッセージで感動させつつ、最後にいつも心がけている3つのことをシェアしていただき、藤本さんの講義は終了。

 

 

 

受講生からは熱のこもったさまざまな質問が寄せられました。

 

「否定されることが怖く、あたらしいコミュニティに入れない」という悩みには、「まず前提に踏み出さないといけないなんてことはありません。いずれタイミングが来るので、急がずに」と藤本さん。また、「人のつながり方がとても素敵だなと感じた」という感想には、「思いに共感してくれる人とやっていくこと」と対話の重要性を挙げました。また、「どうやって仲間作りをしているか」に関しては、「プロジェクトのたびに集めるというより、いろいろな場に出向いて日常的に人に会うようにしている」と秘訣を語っていただきました。

 

「場づくり」のスタンスから、実例の紹介、そして余白を見つける重要性まで盛りだくさんの内容を、印象的なフレーズを交えて話してくださった藤本さん。その力強い言葉は、これから郡山で何かを始めたいと願う受講生たちにヒントを与えてくれたのではないでしょうか。

 


 

ここからは、本校生に向けて行われた第2部の講義の模様をお伝えします。

 

1時限目、2時限目は講師の方々と本校生による、ざっくばらんな質問タイムとなっていた第2部ですが、今回は、「Zoom」のブレイクアウトルーム機能を活用して進められました。まずはいくつかのグループに分かれて10分間で本日の感想を語り合います。

 

 

「これから会社員になることが不安なため、サードプレイスの重要性を感じていた。会社員ではなく私でいられる場所が改めて必要だと感じた」(20代女性)

 

「ひとつの物事を上から見たり下から見たりすることで余白が見つかるという視点が面白かった。こちらからの表現も見せ方を変えると見つけてもらえる可能性があるのかも。私も余白づくりを意識して活動していきたい」(50代男性)

 

「いろいろな人の話を聞いて結論を出していくのは大切なことと感じた。たまには立ち止まって何もしないで考えてみるのも、物事を整理することにつながるのかもしれない」(30代男性)

 

「何かやっている時間だけじゃなく、やっていない時間の価値を忘れていた。何もできなくていいと言ってくれる人がいるのがうれしい」(20代女性)

 

本校生の皆さんの率直な感想から、藤本さんのお話が確かに響いているのが感じられました。次は5つのテーマごとにグループに分かれ、再びブレイクアウトルームでディスカッション。藤本さんはさまざまな部屋を行き来しながら、それぞれの話に耳を傾けます。

 

話し合いを終えて帰ってきた本校生たちはそれぞれに清々しい表情。「いろいろやる気になった」「自己肯定感が芽生えた」といった感想から、お寺の住職をしている参加者を中心に「カリー寺をしたい」という声も飛び出し、何やら具体的に企画が進んでいきそうな気配です。さらに、前回マリンバでチャイムを担当してくれた女性にTV出演のオファーが!? 打楽器や音楽の魅力を伝えたいと話す彼女に巡ってきたチャンスを、本校生全員で喜びました。

 

 

最後に藤本さんから宿題として、「○○×郡山」の“○○”の部分を考えるというなぞかけが出題され、第2部も終了。参加者同士の交流も活発になり、少しずつ動き始めた「こおりやま街の学校」。次回はどんな展開が待っているのでしょうか。どうぞお楽しみに!

文:渡部 あきこ

 

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