2020 聴講レポート

「こおりやま街の学校」7時限目 影山裕樹さん×橋本誠さん

「こおりやま街の学校」は、毎回さまざまなジャンルのプロフェッショナルを招き、魅力的なまちづくりについて学ぶ市民参加型の取り組みです。受講者それぞれが主体となって郡山の魅力を多くの人に発信していくことを目的にオンライン講義を開催しています。

7時限目は「千十一編集室」(https://sen-to-ichi.com/)の影山裕樹さんと「一般社団法人ノマドプロダクション」(https://nomadpro.jp/)の橋本誠さんを講師にお迎えし、『人と地域をつなぐ「アート」と「ローカルメディア」』をテーマにお話を伺いました。

 

 

まずは影山さんからローカルメディアの役割や情報の伝え方についてのお話です。そもそもローカルメディアとはどんなものなのでしょうか? 

 

「テレビや雑誌、新聞などをマスメディアとするなら、ローカルメディアは、おおまかに自治体や地元企業、NPO、または個人が発行するメディア。そして発信者と受け手の関係が一方通行の旧来型のメディアと違い、発信者と受け手が相互に発信し合うメディアと言えます」

 

 

それに伴い編集者の役割も変化。かつてはコンテンツを考え、発信者のメッセージを最適な方法で届けるのが仕事でしたが、メディアが多岐にわたる中で、どうやって発信者と受け手を繋ぐか、伝え方を考えることも重要になっていると言います。いくつか参考になりそうなものを挙げていただきました。

 

・雲のうえhttps://www.lets-city.jp/03_kumonoue-list.php

北九州市が発行するフリーペーパー。行政主導の広報物は観光地や綺麗な景色の紹介になりがちなところを、創刊号の特集は なんと「角打ち」。

「北九州は港湾労働者の町。小さな飲み屋がひしめきあっていて、朝からお酒を飲んでるおっちゃんもたくさんいます。そういう風景こそオリジナルなものであり、地域の魅力。よそものの目で見た編集が功を奏し、10年以上も続く媒体になりました」

 

 

・ラ コリーナhttps://taneya.jp/la_collina/

滋賀県のお菓子店「たねや」が発行。企業の公報誌は会社や商品の紹介をするものですが、お祭りの風景や人の表情など地域の魅力を発信し続けています。写真集のような作りでカメラマンは世界的に活躍する川内倫子さん。

「費用をかけてでも、地域の魅力を耕すことで、最終的な企業のブランド価値を上げることに成功しています。1年だけとか短期の仕事ではなく、何年もかけて続ける覚悟があるところは面白いものを作りますね」

 

 

・本と温泉https://books-onsen.com/

城崎温泉のPRのために作られたメディア。タオルに小説を印字し、温泉に入りながら読める仕組みです。万城目学さん、湊かなえさんら一流の作家を起用している点も話題に。

「マスメディアは均一な情報を満遍なく届けるのが役割ですが、あえて流通を制限することで、この本をめがけて観光客がやってくるような仕掛けを作ることができます」

 

 

「ローカルメディアが大切にすべきなのは、コンテンツの面白さだけではなくどう届けるか。新しい流路見つけることで売り手と受け手をつなぐツールにもなります」と影山さん。さらにローカルメディアは必ずしも冊子である必要はなく、たとえばフランス発の「物語自動販売機」では電車の待ち時間に合わせて読み切れる小説が印字されるレシートや、街角をどこでも立ち飲みスペースにしてしまう「裏輪呑み」、南房総で展開している一風変わったスタンプラリー「へだてパスポート」などを紹介していただきました。

「メディアとはコミュニティをつくるもの。面白いローカルメディアを作ると、たとえば移住者と地域のマッチングなどさまざまな課題が解決される可能性があります」

 

 

また、影山さんは「EDIT LOCAL」(http://edit-local.jp/)というサイトを立ち上げ、「まちを“編集”するプロフェッショナルをつくる、伝える」をテーマに情報発信を行っています。興味のある方は一度のぞいてみてはいかがでしょうか。

 

 

続く橋本さんは各地で開催されるアートプロジェクトに携わり、企画や制作からコミュニティのマネジメント、記録誌の編集などを幅広く行っています。いくつか、印象に残っているプロジェクトを紹介していただきました。

 

 

・KOTOBUKIクリエイティブアクションhttp://creativeaction.jp/

横浜・寿町エリアを舞台としたアートプロジェクト。住民の高齢化治安の悪化など課題先進地域にアーティストやクリエイターが入り、地域住人と協働しながら活動を展開。

「町を舞台にしたプロジェクトには人付き合いの面で面倒な部分もありますが、普段出会わない人が出会い予想もしない結果が起きる点に魅力を感じます」

 

 

・墨東まち見世http://machimise.net/

地域資源を活かした創造的な文化発信、地域のアートやまちづくりの担い手育成とネットワークづくり、地域の抱える多様な課題の共有という3つのミッションを掲げたアートプロジェクト。

「たとえば『おしょくじ』というプロジェクトは、地域のお店を取材しておみくじのようにし、お客さんが引き当てたお店に実際に行ってみるという個人商店の多い町ならではの企画。期間限定のアートが社会実装化されていくような、まだ価値化されてない可能性が感じられました」

 

 

「アートプロジェクトは、まだできあがってない価値を発見できる場所」と語る橋本さん。特に地域住民が協働するプログラムはアーティストだけではなくいろいろな人が主役になれる場面があり、可能性が感じられるといいます。一方で、アートの捉え方は自由と言いながら伝わらないと意味がないと考え、記録にもこだわってきました。「形に残らないプロジェクトが多いので居合わせなかった人に伝える、残すことが大事。誰に届けるかも含めて考えていかなければ」という言葉は、影山さんが話してくださったローカルメディアの役割とも重なります。

現在は影山さんを編集に迎えて『日本各地で行われているアートプロジェクトの動きを伝える10年本(仮)』を製作中とのこと。地域とアートの関わり方について学びたい方はぜひ楽しみにお待ちください。

 

 

質問タイムでは、おふたりの活動や地域との関わり方についての話題に。

 

・ローカルメディアの魅力って?

影山さん「普段出会わない人が出会うきっかけを作るところです。ローカルメディアはメディアのかたちも自由。テレビじゃ伝わらない、届かない人にも届くきっかけになります」

 

・アートの魅力って?

橋本さん「アートプロジェクトの効果として、よく社会関係資本ができるという言い方をします。要するにお金にはならないけど多様な関係が生み出されるということです。美術館でやってたら来ない人が来て作品を楽しんでいる風景を見ると、いいなと思いますね」

 

・偶然のつながりを継続する工夫としてはどんなものがありますか?

橋本さん「アートは展示期間が限定されてしまうものなので、そこでやったことにこだわりすぎると時代が変わるにつれ、ずれていくんです。強固に守るのもひとつの方法ですが、ほどよく変わりながら残すのもやり方かなと思います」

 

・多世代のつながりを生む中で気にかけていることはありますか?

影山さん「ワークショップをやるときなどなるべくいろんな世代の方に来てもらうために、お年寄りには新聞、若い人にはWEBマガジンやSNSなど言葉を言い換えて発信したりします。まずは来てもらうことが重要で、その中で議論していくと案外面白いアイデアが出てきますよ」

 

アートとローカルメディア、表現方法は違えど、普段出会わない人が出会うきっかけを作るという点で共通した役割を持つことがわかりました。町づくりに取り入れることで新たな魅力の創出にもつながるかもしれません。

 



ここからは、本校生に向けて行われた第2部の講義。ふたりの話に刺激を受け、さまざまな質問が飛び出しました。

 

 

・情報があふれている今、必要な人に届いていないと思うときはありますか。また対策はどうしていますか?

影山さん「そればかり考えています(笑)。上手にできている自治体はごくわずかで、今でもほとんどは漠然とフリーペーパーや動画を作るだけ。誰にどう届けるかがまったく考えられてないんです。改善のためにはメディアリテラシーを上げていくことが重要。たとえばプロポーズでも直接伝えるか電話かLINEかで受け止め方が変わるように、どういう媒体でメッセージを届けるかにもっと意識的になるべきと考えます」

 

・受け取る側から発信者へはどんなフィードバックが考えられますか?

影山さん「ローカルメディアは読者との距離が近いので、間違いがあるとすぐ指摘されます。発信して終わりじゃなく、出版した後に読者との交流が始まるのがローカルメディア。なんとなく東京風の雑誌を作れば終わりじゃない、そのあとの交流まで考えていかないといけないので、なるべく地域の人に書かせたり関わってもらうことも重要です」

 

橋本さん「アートプロジェクトでもチラシや記録集を作りますが、作ったあとの配り方も大事。僕は直接行くのが好きで、そうすると誰がやってるかがわかるのでそれだけでも扱いが違うんです。リアルなものはネットにはない飛び方をするので、そこも面白さですね」

 

 

途中、影山さんの発案で簡単なワークショップを実施。郡山の魅力を発信するためのメディアというテーマでアイデアを出していきます。「郡山のブランド野菜×くじ引き」は、引いたくじについてきた野菜でその場で即興料理を作る案、また「クリームボックス×手紙」で、クリームボックスの上に文字を書いて渡す案など、実現してほしい楽しいアイデアが次々と誕生! その様子を見て、「壁は自分が作っているだけなので、どんどんやりきってほしい」と影山さんも背中を押してくれました。

 

 

今回、ふたりから出された宿題は「これから部活をするならどんなことをしたいか。また、誰としたいか」。アートプロジェクトやローカルメディアを作るにしろ、ひとりじゃできないことばかり。最後までやり切るのは仲間が必要なことから、自分のしたいことを具体的に考えてみようというお題です。

最後はおなじみのマリンバチャイムを聞いて終了。9月から始まった「こおりやま街の学校」も、これで残すところもあと2回となりました。ぜひ最後までお付き合いくださいね!

 

 

文:渡部 あきこ

 

 

 

 

 

 

 

 

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