2020 聴講レポート

「こおりやま街の学校」9時限目 指出一正さん


 

郡山市をより魅力的に発信していくために、毎回さまざまなジャンルのプロフェッショナルを招き、まちづくりのヒントを学んできた「こおりやま街の学校」が、ついに最終回を迎えました。9時限目の講師は雑誌「ソトコト」編集長であり、「こおりやま街の学校」の学校長も務めてくださった指出一正さん。「ローカルを楽しむ柔らかな未来」をテーマに、全国のまちづくりの事例を紹介してくださいました。

 


 

はじめに、昨今のローカルプロジェクトについて「おもしろいものも多いけど、テクニカルになっている」と分析した指出さん。そうではなく、参加している人自らが楽しめるような、自分にもできるかもと思わせてくれる“ゆるふわ”な事例を教えてくださいました。

 

・「まこと無人マーケット」

 

指出さんの息子、まことくんが緊急事態宣言下ではじめた取り組み。「おやまちプロジェクト」(https://oyamachi.org/)の例を参考に、家の前に不用品を並べ、道行く人に自由に持って行ってもらおうというもの。折しもコロナ禍で近所を散歩する人も増え、少しずつ反響もあり、地域の人との交流も次第に生まれていったそう。そのうち、近所の別の家でも同じ取り組みが始まるなど、広がりも生まれました。
「街に変化が起きるのは小さなところから。息子の例を出したことについては公私混同タイプなので許して(笑)」

 

・「パーリー建築」https://www.facebook.com/pticpartic/

 

新潟県十日町市にある「ギルドハウス十日町」で始まったプロジェクト。毎日パーティーをしながら住居をリノベーションするというもので、指出さんも「自分で未来を作れるという衝動を教えてくれたプロジェクト。彼らがいなかったら関係人口という言葉に肉付けできなかった」というほど、画期的な取り組みだったそう。「ギルドハウス十日町」はこれをきっかけに約8000人が訪れる場所になりました。

「何か面白いことをやっていると人が集まってきます。それは必ずしも計算づくのものじゃなくて衝動的なものから始まってもいいんです」

 

・「スナックミルキー」

 

奈良県の天川村を舞台にしたプロジェクト。名古屋の大学生などが地域作りを学ぶために訪れた天川村で、お互いが何か楽しめるものを作ろうと一夜限りのスナックを開店。ついには80人もの人が集まる場となり、地元の温泉を訪れていたカップルも飛び入り参加。「天川村の人々がおもしろいと知れてよかった」と感激していたそう。

「地域にやってくるとは? プロジェクトが目指すものとは? 何を大事にして観光や地域づくりに力を入れるかというと、みんなで幸せな時間を過ごすことが目標なんじゃないかなと僕は感じています。それが一夜限りでもできたことは素晴らしいこと」と指出さん。「スナックミルキー」は今も各地で開かれているそうです。

 

・「桃色ウサヒ」https://www.town.asahi.yamagata.jp/usahi/index.html

 

「桃色ウサヒ」は山形県朝日町の非公認ゆるキャラ。中の人は佐藤恒平さんという方で、着ぐるみを着てさまざまなイベントに出没するなどの活動をして町の人にも愛される存在になっていました。しかし見た目はなんてことのないピンク色のウサギ。見かねた人々が名物のりんごをかたどったポーチを持たせたり、頭の後ろに町の名前を書いたりしてプロデュースするようになったそう。

「興味がない人にどう興味を持ってもらうには、最初に戻ることが大事。おもしろい、おいしい、楽しい、不安。なんでもいいから感情を引き出すこと。それは選ばれた人だけじゃない、誰でもできることです。そんな視点が地域を編集することにもつながります」

 

・「ブックマンション」https://twitter.com/bookmansion

 

東京・吉祥寺に2019年にできた風変わりな本屋。本棚を正方形に区切り、一月3850円で貸し出し、借りた人はそこに自分の好きな本を置いて販売できるという仕組み。誰もが一度は思ったことのある「本屋さんをやってみたい」という想いを実現する場所として、現在70組もの人が利用するようになっています。「ここでは本を売っているのはもちろんですが、新しいコミュニティを作っている面もあります。本を介して人と人の出会いが連鎖していき、言うなれば本棚ひとつひとつが小さいローカルプロジェクトの集合体になっています」

 

・「水をたべるレストラン」http://www.carrying-water-project.jp/restaurant/

 

福井県大野市に若者たちが立ち上げた〈ミズカラ〉が企画した一夜限りのレストラン。水がおいしいことで知られる街の特性を活かし、“水”を感じられるメニューで、関係者をもてなしました。地元の古民家で、地元の食材を使い、地域の草花で飾り付けられたお膳の美しさは、インスタグラム社の目に止まり表彰されたほど。

「自分の街や暮らしをかっこよくおしゃれにしたい。そこから始まって、さまざまな仕事を持つ方が地域の活動を楽しんでいる姿は理想的です。自分の許される時間の中で無理なく続け、結果を急がないことが大切。ローカルのかっこよさを伝えられる街には人が集まります」

 

・「まちのリビングプロジェクト」https://readyfor.jp/projects/machipuro

 

福島県石川町で行われたプロジェクト。町内のふたつの高校に通う生徒が学校の垣根を越えてつながり、町の文化財でもある「鈴木重謙屋敷」を世代を問わず人々が交流できる“リビングルーム”のような場所にしようと活動を開始。その動きが上の世代も刺激し、文教福祉複合施設「モトガッコ」とコラボしたタンブラーの製作なども行われました。

「高校生自身が何度も議論を重ねて成功させたことで、自信につながったと思います。何かをやった経験はやらない経験よりはるかにいいもので、失敗しても成功してもどちらでもかまわないのです」

 

どのプロジェクトも決してハードルが高いものではなく、少しの工夫と行動する力で実現させたものばかり。こういった“ゆるふわ”な感覚を大事にして、できるだけ気取らない、いろいろな人は関われるものにしていくことがローカルプロジェクトの本質であるようです。

 

 

「予測できない不安なまま未来を迎えるか、楽しい未来は作れるじゃんという気構えでいるかで言ったら、後者になるといいですよね。未来や夢の話は恥ずかしいというのがかつての社会の気分でしたが、カジュアルに語れるようになってほしいなと願っています。郡山の未来を楽しみにしています。いつか郡山で会いましょう!」

 

最後の講座にふさわしい未来についてのお話に、たくさんの勇気をもらえた1時間でした。指出学校長、ありがとうございました!

 


 

ここからは、本校生に向けて行われた第2部の講義。まずは第1部の感想を語り合った後に、修業式が行われました。

 

 

各地のローカルプロジェクトの事例を知り大いに刺激を受けた本校生。口々に「自分もやってみたいプロジェクトがあった」「硬く考えがちな頭を柔らかくしてもらったような気持ち」と感想が寄せられました。これほど多くの取材を重ねている指出さんにはどんな初期衝動があったのでしょう?

 

「僕自身はとりわけ初期衝動があるタイプではないんです。“夢組”“叶え組“でいったら叶え組だし、編集者は多くがそうだと思います。そんな中、なぜ今があるかというと、皆さんと出会ったから。誰かと誰かが出会って何かをやっているところに合流してきた結果です。犬でいうと、番犬とか闘犬がいる中で僕は牧羊犬なんじゃないかな(笑)。みんなが安全な場を作る役回りですかね」

 

その後は、本校生全員がこれまでの講座を振り返っての感想と気づきについてひとりずつ発表していくことに。メンバーの中には、「終わってしまうのが悲しい」と涙ぐむ方も。そんな終了式の中でのやり取りの一部をご紹介します。

 

・「講師の方の話は根っこがシンプルなだけに、難しいなと感じることがありました。なぜ難しく感じたのか考えると『地域と関わりたい』という思いが逆に邪魔していることに気づきました。まずは応援側から始めてみたいと思います」

指出さん「心を広く持っていろんな視点を持ってみてください。地域に関わるタイミングはいつかやってきます。周囲の変化が起きるまでは慌てなくても大丈夫ですよ」

 

・「いままではビジネスモデルをガチガチに考えていましたが、楽しみながら活動をするという視点を持てた気がします」

指出さん「これからはどこまでが仕事で遊びか、わからない時代になっていくと思います。やりたいことをやっていたつもりがいつの間にか仕事になったり、どんなことにも経験する価値があると思います」

 

 

・「講義に参加していろいろな方に出会うことができました。大学卒業後は郡山に戻る予定ですが、自分ごととして街について考えていけそうです。身の丈にあったことから始める気持ちを大切にします」

指出さん「出会いも自分で選び取ったもの。そうやって思わぬところから仕事にもつながっていきます。どんな大きなイベントもまずは小さく始めたことがほとんど。郡山はこれからおもしろくなりますよ。ぜひこの流れに乗ってください」

 

・「毎回講義の後、放課後クラブで話し合えたことがとてもいい経験になりました。目標を臆せず伝えることの大切さを学びました」

指出さん「多世代の出会いの場はなかなか作れないので、それはまちがくの良いところでもありましたね。そういうコミュニティは自分がブレそうな時の拠り所になってくれますよ」

 

・「若い人の元気がないと常々感じていましたが、まずは自分が楽しんでやっていかないと若い人にも伝わらないということがわかりました」

指出さん「年齢は関係がないので、自分が好きなものを好きなだけ愛して、力注げる環境ができたら素晴らしいと思います。どんなに優秀でも人は付いてきません。この人と何かしたら楽しそうという雰囲気が出せるのが大事です」

 

・「今日で終わらず、次につなげる場にしていきたいです」

指出さん「そうですね。今日は卒業式ではありませんから、認証式ということにしましょう。皆さんが『まちがく』のメンバーであることを認証する日です。皆さんは1期生。後輩のためにも頼もしい存在でいてください」

 

最後に指出さんから「1期生は始まり。『まちがく』という素敵な居場所を、これからも育てていきたいので、引き続き力を貸してください」と激励の言葉をいただき、修業式は幕を閉じました。ひとりひとりの発表に耳を傾け、丁寧に対話をしてくださった指出さん。その言葉に背中を押されるように、本校生の顔が希望に満ちあふれていくのが画面越しにも伝わってきました。

 

 

恒例のマリンバチャイムは「蛍の光」。少しだけしんみりしつつ、これから始まるかもしれないプロジェクトにワクワクしながら笑顔で記念撮影。コロナ禍でオンラインでの開催になった「こおりやま街の学校」ですが、30名を超える参加者が世代を超えて出会い、立派なコミュニティに育ちました。講義は終わりますが、まちづくりはここからが始まり。郡山がもっと楽しく魅力ある街になるために、皆さんの活躍に期待しましょう!

文:渡部 あきこ

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