MACHIGAKU REPORT まちがくレポート

【開校式・1時限目】
まちに関わり、ごきげんに暮らすということ

指出 一正氏(学校長・講師)

2021.10.3

 

 

ひろく澄みきった青空。足どりはずむ、さわやかな風。秋晴れの気持ちいい10月3日の日曜日、「こおりやま街の学校」開校式・1時限目が行われました。この日の進行は、学校長・1時限目の講師を務める指出一正さん。今では一般的になった「関係人口」の提唱者です。このレポートでは、まちづくりの第一線をいく指出学校長の視点や事例など、講義のようすをお届けします!

 

○講師プロフィール

指出一正

株式会社ソトコト・プラネット 代表取締役

未来をつくるSDGsマガジン『ソトコト』編集長

雑誌『Outdoor』編集部、『Rod and Reel』編集長を経て、現『ソトコト』編集長。島根県「しまコトアカデミー」メイン講師。静岡県「『地域のお店』デザイン表彰」審査委員長、和歌山県田辺市「たなコトアカデミー」メイン講師、秋田県湯沢市「ゆざわローカルアカデミー」メイン講師等多数活躍。著書に『ぼくらは地方で幸せを見つける』(ポプラ新書)。

 

「こおりやま街の学校」へのご入学おめでとうございます!

 

今年の「まちがく」は、現地とオンラインでの2通りで同時開催。この日は、郡山市役所正庁が会場でした。現地参加された45名もの「本校生」は、10代の学生から70代の方まで多世代!また居住地は郡山市・二本松市・本宮市・西会津町、さらには県外の方まで、さまざまなバックグラウンドを持つ方が集まりました。

 

 

コロナ禍であるため、検温や手指消毒、ソーシャルディスタンスの確保など、感染症対策はしっかりと。初回というものあり、本校生のみなさんはちょっぴり緊張ぎみのようす。

 

・・・さて時刻は、午前10時。

 

「こおりやま街の学校へのご入学おめでとうございます!」

「街の学校」スタッフのお祝いメッセージとともに、「こおりやま街の学校」開校式がスタート!指出学校長より、本校生のみなさんへエールをいただきました。

 

指出学校長が登場!

指出学校長が登場!

 

指出学校長:みなさんご入学おめでとうございます!学校長を務めさせていただく指出といいます。今日からよろしくお願いします。すてきな郡山の街をみんなでおもしろがる視点や、郡山に暮らしていることや関わることが「おもしろい」と思う気持ちがすくすくと育っていく講座になればと思っています。さて今日は、学校長っぽい話をしようかなと(笑)。「非認知能力」って聞いたことはあるでしょうか。数値化できない「生きていくために必要な能力」のことで、やり抜く力やコミュニケーション、なにかを乗り切るときに誰かと一緒にやっていくことなんかを指します。ここが、おとな同士の仲間が増えていく学校になればいいなと思っています。今日からはじまる「こおりやま街の学校」で、楽しく、思いっきり、めいっぱい自分らしさを感じてください。

 

 

 

ゆたかな地域には、ゆたかな水循環や地下水マネジメントがある。

 

開校式に続き、指出学校長による1時限目が開講。テーマは「まちに関わり、ごきげんに暮らすということ」。講義は「YouTube Live」で生配信され、30名ほどの聴講生が参加されました。

 

指出さんは、社会と環境をテーマにしたメディア『ソトコト』の編集長を11年務めています。

 

最新号のテーマは「SDGs 地球環境編」

最新号のテーマは「SDGs 地球環境編」

 

でも実は、もともと魚にしか興味がないという指出学校長。頭のなかは、サクラマスとイワナとタナゴという魚でいっぱいなんだとか。実はこの魚たちがいる場所が、ローカルのゆたかさを保っている場所。郡山をはじめとした福島県という地域は、この魚たちと接点がある場所だと話します。たとえば、タナゴは田んぼの魚、イワナは森の魚、サクラマスは湖や川を行き来する循環を象徴する魚。そういった魚たちがいることが、地域の豊かさにつながっているそうです。例えば、「空気がおいしい」「水がおいしい」「野菜がおいしい」「人があたたかい」といったフレーズを耳にしたり、ことばにしたことはありませんか?それはつまり、そのまちが「水循環」や「地下水マネジメント」をしっかりとできている証。ゆたかな地域づくりの背景には、ゆたかな水の循環がある。郡山は、それらが上手く導入できているまちなのだそうです。

 

まちに、おもしろさの粒を。

 

地域づくりをはじめ、若い人たちが地域に出会うきっかけを全国各地でつくっている指出学校長。「まちにおもしろさの粒をつくっていくきっかけのヒントになれば」と、これまでに学校長が関わってきたいくつかの事例をお話いただきました。

 

地域の編集学校 四万十川源流点校

良品計画「暮らしの編集学校」

奥大和MIND TRAIL

山形県小国町「白い森 SUSTAINABLE DESIGN SCHOOL

北陸農政局「たがやすラボ」

 

指出学校長:「オンライン関係人口」と言っていますが、コロナ禍になってからオンラインでできることが増えていて、地域に関わる方法が多様化しています。地域に足を運ばなくても、関係性をつくることができる。制約があるなかでも地域に関われる。「こおりやま街の学校」に参加されているみなさんにとっても、これらの事例から地域に関わることのハードルがすこしでも下がったなと思ってもらえたらうれしいです。

 

山形県金山町「カネヤマノジカンデザインスクール」

ゆざわりんごプロジェクト

やまがたアルカディア観光局

 

学校長の話を聴きながら、メモをとる本校生。

学校長の話を聴きながら、メモをとる本校生。

 

全国あちこちでひらかれている、
まちづくり・地域づくり。

 

ここからは、指出学校長がみなさんにシェアしたい全国各地の事例を紹介。古民家の利活用、コミュニティづくり、企業や自治体との連携、高校生を巻き込んだプロジェクトなどなど。みなさんの活動のヒントにしてみてください。

 

シェアアトリエつなぐば

みしま未来研究所

シェアリビング「本町しもた屋」

漁師の三浦尚子さんは、編集者。

裏山しいちゃん

まちの関係案内所「ナカイチ」

くしろにもっとユーモアを!「クスろ」

ゲストハウス「旅の途中」

ハミングデザイン

 

指出学校長:こういった人たちの活動に共通しているのは、自分の仕事の肩書を超えて、自分らしいと思えるものを地域で生み出しているということです。例えば「編集者」。地域のことを、どこにいる誰に、どうやって届けるのか。的確に距離を計算して、届ける技術を持っているのが編集者です。ぼくも今日は、編集者という視点でみなさんにお話しています。編集というのは、記事をつくったり情報を発信したりということも大事ですし、一方でその場にあるものを「こうしたらきっといいだろうな」ということで「社会発見商品」をつくったり、場と場をつないだりすることも編集です。みなさんも本業としての名刺があると思いますが、みなさんの生き様やあり方として、地域の「編集」というのを持っておくのはいいかもしれません。

 

「こおりやま街の学校」に参加されているみなさんも、「まちの編集者」かもしれないですね。

「こおりやま街の学校」に参加されているみなさんも、「まちの編集者」かもしれないですね。

 

まちづくり、地域づくりに困ったら。
この3つを試してみて!

 

まちづくりや、地域づくりに興味はあるけど、なにをすればいいか分からない。やってみたけど上手くいかない。そんな人に、指出学校長がおすすめする3つのアクションがこちら!

 

○スナック

○バーベキュー

○駄菓子屋さん

 

指出学校長:なにか困ったら、スナックやバーベキュー、駄菓子屋さんをやってみてください。この3つのどれかをやれば、人は現れます。みんなが来やすい口実をつくることが、まちのデザインの第一歩です。「なんか楽しそうだな」という風や雰囲気をつくりましょう。対面でのイベントができるようになってきましたから、コロナ対策をしっかりとしてイベントやお店をやってみるというのも、まちづくりの仕掛けにいいと思います。

 

指出学校長も、バーやスナックのマスターをされているんだとか。

指出学校長も、バーやスナックのマスターをされているんだとか。

 

まちに関わり、ごきげんに暮らすということ。

 

指出学校長:今日は「まちに関わり、ごきげんに暮らす」というテーマでお話させてもらいました。今日ご紹介した人たちはみんな、ごきげんにまちに関わっています。自分ごととしてまちに関わるというのは、すごく大事なこと。「課題を解決せねばならない」とかではなく、自分が楽しいことをやっていたら、気づけばまちづくりにつながっていたというストーリーが全国各地にたくさんあります。この先は、みなさんオリジナルのストーリーをつくってください。

 

 

指出学校長:そして今日は、「まちに関わり、ごきげんに暮らすサスティナブルな4つの視点」をお伝えして締めくくろうと思います。「関わりしろ」は、半分開いていて、半分閉じている状態のことです。自分がやってみたいと思うことやコミュニティ、時間、空間があるときに、つるつるぴかぴかでみんなが入りづらい状態ではなくて、ちょっとざらっとしていてみんなが入ってきやすい状態。それをぼくは「関わりしろ」と呼んでいます。それから郡山はSDGs未来都市ですから、「未来をつくっている手応え」を持てる場所だと思います。「未来をつくる」ことのなにがいいかって、「バトンを渡せること」なんです。昔に戻った時点でゲームオーバーですから。人口が減っていくなかで、未来をどうやっておもしろくしていくか。過去のことは共有できなくても、今からはじまることは、みんなで共有できますよね。みなさん、「未来」をつくっていきましょう。「自分ごととして楽しい」も大事です。イヤイヤでやる時代は終わりました。自分が楽しいなと思うことをやっていく。そしてその「自分ごと」がいつか、「仲間ごと」になるといいなと思います。なによりも「仲間の存在を知る」というのは大事です。今の時代のように、社会が多様化して複雑化すると、一人だけで解決できることはもうありません。だからこそ、自分ではない誰かと一緒にできることがたくさんあります。そういったことに気づくことや、仲間と出会うこと。それが「こおりやま街の学校」の本質でもあると思います。

 

 

「まちの編集」を体験するワークショップ

 

お昼休みのあと、午後からは本校生限定のワークショップを開催。「編集者」として活動されている指出学校長と一緒に、体験型の学びを通して「編集」にふれてもらいました。まずは、チームに分かれて自己紹介。チームは「ゆべし」「薄皮饅頭」「ままどおる」「カフェオレ」「クリームボックス」の5つあり、どれも郡山や福島に縁があるものです。

 

チーム「カフェオレ」は、みんな大好き「酪王カフェオレ」が由来!

チーム「カフェオレ」は、みんな大好き「カフェオレ」が由来!

年齢も性別もさまざまな人がひとつのグループになり、交流を深めていきます。

年齢も性別もさまざまな人がひとつのグループになり、交流を深めていきます。

 

さて、場の空気があったまってきたところで、ワークショップスタート!今日のお題は「郡山の魅力と、チーム名にある甘いものを組み合わせてイベントをつくる」こと。さて、どんなイベントが生まれてくるのでしょうか…?

 

郡山の魅力ってなんだろう?

郡山の魅力ってなんだろう?

思いついたことを付箋に書いてみたり。

思いついたことを付箋に書いてみたり。

みんなの付箋を見ながら、アイデアを共有しあったり。

みんなの付箋を見ながら、アイデアを共有しあったり。

指出学校長もまざって、ちょこっとアドバイス。

指出学校長もまざって、ちょこっとアドバイス。

感染症対策のために設置されたアクリルボードが、付箋の展示ボードに早変わり!コロナ禍だからこそ生まれたアイデアだと、指出学校長も絶賛!

感染症対策のために設置されたアクリルボードが、付箋の展示ボードに早変わり!コロナ禍だからこそ生まれたアイデアだと、指出学校長も絶賛!

 

感染症対策のために設置されたアクリルボードが、付箋の展示ボードに早変わり!コロナ禍だからこそ生まれたアイデアだと、指出学校長も絶賛!

 

時間がきたところで、チームごとにイベントの発表です!

 

チーム「ままどおる」:郡山は音楽の街なので、開成山でままどおるとコラボした「ままどおるコーラス」ができないかと考えました。あとは、ままどおるの早食い大会や、ままどおるに合う飲み物の開発、「ままどおる」の「まま」をとって、ママを応援するイベントやママのコミュニティづくりといったアイデアもありました。

 

チーム「クリームボックス」:郡山にある場所の特徴や魅力とクリームボックスをかけあわせて、「古墳型のクリームボックス」を考えてみました。あとは、郡山の景色をクリームボックス上にイラストで表現するアイデアや、クリームボックスとご当地の味をかけ合わせた「味変」のアイデアも生まれました。

 

チーム「ゆべし」:郡山の魅力や好きなところがありすぎて、意見がまとまりませんでした(笑)。なので、みなさんの付箋をランダムで選び、組み合わせてみたところ想定外のアイデアが誕生したんです。例えば「公園でゆべし投げイベント」。ゆべしのレプリカを投げて、距離を競うなどして健康増進イベントにつなげられないかと考えました!

 

チーム「薄皮饅頭」:薄皮饅頭って歴史深いものなので、比較的歴史の浅いものと組み合わせたコラボイベントをできないかと考えました。例えば、カフェオレやクリームボックスと薄皮饅頭の組み合わせ。他のチームのみなさんとコラボしたいですね。

 

チーム「カフェオレ」:郡山の景色や自然と、カフェオレを組み合わせた企画を考えました。その名も「俺とカフェオレ」。カフェオレって、リラックスできる飲み物ですよね。そんなカフェオレと自分、そして郡山のリラックスできる風景や自然を背景に写真を撮り、SNSで発信することができたらなと。この企画、「こおりやま街の学校」でやってみませんか?

 

各チームのリーダーが発表してくれました!

各チームのリーダーが発表してくれました!

「そんなアイデアもアリか!」と、聞いているみなさんも楽しげ。

「そんなアイデアもアリか!」と、聞いているみなさんも楽しげ。

最後に、指出学校長からみなさんにエールをいただき、この日の締めくくり。

 

指出学校長:みなさんの熱ある議論をご一緒して、スピード感満点で、プロジェクトを生み出す前向きな気持ちにあふれていると感じました。こんなふうに、なにかとなにかを組み合わせて、新しいものをつくる掛け算をしてみると、頭がやわらかくなりますよね。こうやってアイデアを練っていくと、いつか「カチッ」と企画がはまるタイミングがあるはずです。ぜひこの先の「こおりやま街の学校」も楽しんでください!今日はありがとうございました!

 

最後に集合写真をパシャリ!

最後に集合写真をパシャリ!

株式会社ソトコト・プラネット 代表取締役
未来をつくるSDGsマガジン「ソトコト」編集長
指出一正 氏

雑誌『Outdoor』編集部、『Rod and Reel』編集長を経て、現『ソトコト』編集長。島根県「しまコトアカデミー」メイン講師。静岡県「『地域のお店』デザイン表彰」審査委員長、和歌山県田辺市「たなコトアカデミー」メイン講師、秋田県湯沢市「ゆざわローカルアカデミー」メイン講師等多数活躍。著書に『ぼくらは地方で幸せを見つける』(ポプラ新書)。