MACHIGAKU REPORT まちがくレポート

【3時限目】
まちの新しい個性となるコンテンツを見つける、磨く

小野 裕之氏(講師)

2021.11.13

 

 

「まちがく」3時限目の講師は、2020年に下北沢でオープンした商業施設「BONUS TRACK」を運営している株式会社散歩社の代表、小野裕之さん。主に鉄道会社や不動産会社と協働し、場づくりを通して地域ににぎわいを生んでいます。これまでの豊富な経験や事例をふまえながら、まちで何かをはじめたいと思っている人へのアドバイスをいただきました。

 

○講師プロフィール

小野 裕之氏

株式会社散歩社 代表取締役

1984年岡山県生まれ。中央大学総合政策学部卒。ソーシャルデザインをテーマにしたウェブマガジン「greenz.jp」を運営するNPO法人グリーンズの経営を6年務めた後、事業開発・再生のプロデュース機能をO&G合同会社として分社化、代表に就任。greenz.jpビジネスアドバイザー。 ジュエリーブランドSIRI SIRI共同代表。おむすびスタンド ANDON共同オーナー。「下北沢BONUS TRACK」を運営する 散歩社 代表取締役。発酵デザインラボ(発酵デパートメント)取締役CFO。

 

技術を持った職人さんと、行政や企業とむすぶ。

 

この日の「まちがく」は、2時限目と同じく「郡山市郡山公会堂」で開催。秋が深まり、紅葉シーズン真っ只中の土曜日に行われました。

 

 

この日も、「まちがく」恒例となりつつあるラジオ体操からスタート!朝、ぐっと冷え込む日が増えてきたので、身体がぽかぽかと温まり、頭がすっきりとします。

 

 

準備体操が終わったところで、今日の講師、小野さんが登場。

 

講師の小野裕之さん

講師の小野裕之さん

 

15年ほど、ソーシャルデザインをテーマにしたウェブマガジン「greenz.jp」の運営を経営視点でサポートされてきた小野さん。現在は主に「コーディネーター」「プロデューサー」という立場で、企業から依頼を受けて地域づくりや事業の立ち上げに関わることが多いそう。今回は小野さんが関わってきたいくつかの事例をお話いただきました。

 

もうひとつの肩書が持てる街「リトルトーキョー」

 

築70年の空き店舗と空き地を借りて、「東京のなかの東京をつくる」をコンセプトに立ち上げたプロジェクト。例えば、ふだんは会社員をやっているけどショップをやってみたり、料理を出してみたりなど、何かお試しでやってみたい人が「もうひとつの肩書が持てる街」として場をオープン。小野さん自身が料理人として店舗に立ち、昼はカフェ、夜はバーとして場を運営しながら家賃をペイしていたそうです。

 

 

バイオマス×ゲストハウス「sonraku

 

岡山県・西粟倉村にある林業の企業支援例。自治体が保有していた温泉宿を、バイオマスのベンチャー企業が場所を借り上げて「温泉旅館・ゲストハウス」として再生。建材にならない木材を利活用し、地域内資源で熱源を供給できる仕組みをつくりました。

 

 

おむすびを通して地方と東京をつなぐ「ANDON

 

三井不動産からの依頼でスタートした事業。東京・日本橋におもしろい人たちが集まって、日本橋を新しい視点で編集してくれるような人たちが集まる拠点にしてほしいという依頼のもと、おむすび屋さんをやることに。おむすび屋さんは単価が高くない商売ではあるけど、おにぎりが苦手な人や食べられない人はいないはず。中身の具材次第で、いろんな地域とのコラボや商品開発がしやすいと思い、おむすび屋さんをスタートしました。おむすび屋そのものは、秋田県でお米屋さんをやっている人と手を組むことに。秋田県は杉の生産地であることから、店舗のファサードには焼き杉を使用。地域にとって灯火になりたいという想いから「ANDON」と名付けました。昼はおにぎり屋さんとして運営し、夜は立ち飲み屋、ちいさな書店スペースも設置。狭い空間にいろんな機能を複合化させて、秋田だけでなくさまざまな地域と東京をつなぐ役割を担っています。

 

 

日本の職人技術を生かしたジュエリー

 

東京の伝統工芸「江戸切子」の技術を使ったジュエリーブランド「SIRI SIRI」の経営も。普段はビーカーや試験管などをつくっている職人さんがガラスのジュエリーを手がけ、その上から江戸切子の職人さんに切子を入れてもらい、商品を仕上げています。コロナ禍によりおうち需要が高まっていることから、「SIRI SIRI」を通じた住宅まわりのデザイン展開も進行中。

 

 

小野さん:伝統工芸のつくり手さんや、農家さん、料理人、そういう職人さんたちにリスペクトがあるんです。どうすれば、そういった人たちが現場でスムーズに仕事できたり、作業負荷を上げることなく作業価値を高められたりするのか。日々そんなことを考えながら、職人さんと行政・企業とのコラボレーションを図り、事業全体のコーディネートやプロデュースに励んでいます。

 

社会課題にタッチする商業施設「BONUS TRACK

 

小田急電鉄と協働で取り組んでいる東京・下北沢の新しい都市開発プロジェクト。下北沢にある3駅分の線路が地下化したことにより広大な空き地が生まれ、その一区画に住居と商業施設をそなえた拠点をオープンしました。商業施設には、象徴的なテナントが入っていることが大事だと感じた小野さん。下北沢で長く書店を経営している「本屋B&B」を巻き込み、地域の文化度を高めるコンテンツとして生かしています。そのほか、飲食店や発酵専門店など14テナントをキュレーションし、業態が散らばるようにラインナップを工夫。この場所を訪れた人がただ消費するだけでなく、社会課題にタッチできるような収益以外の文化的・社会的ミッションを掲げ、拠点を運営しています。

 

 

小野さん:まちの魅力は自分だけでつくれるものではありません。このまちにも、料理人さんや農家さんなど、現場で魅力をつくっている人たちがたくさんいると思うんです。そういったプロフェッショナルと組みながら、お客さんのため、社会のために、必然性をもたせながら継続的にプロジェクトを磨き上げていくと、それが自分の生業となって、食べていけるくらいの利益が生まれると思います。

 

 

イベントをやるときに意識したいこと

 

数々の事例をふまえて、「街で何かをはじめてみたいという人は、イベントをやってみるのがいいと思います。そんなときに、これらを意識してみてください」と小野さん。

 

◯単発ではなくフォーマットをつくって定期的に開催する

◯既存の切り口や概念にとらわれるのではなく、独自のキュレーションで街をとらえる

◯収益につながるイベントになっているか?

◯「まちの課題解決」につながるイベントになっているか?

◯社会へのメッセージ性があるか?

◯来場者への価値提供につながっているか?

 

小野さん:イベントを単発で終わらせないためには、継続していく「必然性」が重要だと思います。そのために、「いまやる理由」「私がやる理由」「この街でやる理由」を答えられるようにしておくこと。そうすると、仮に自分がイベントをやらないことになっても、誰かがコンセプトを引き継いでイベントを開催してくれるかもしれない。ぜひこれらのポイントを意識してみてくださいね。

 

 

想いを言語化するワークショップ

 

お昼休みをはさみ、午後からはワークショップを開催。これまでのように、みんなで企画をつくったりするようなワークショップではなく、「まちがくに参加した理由・背景」「郡山で生きていく期待・不安」「わたしが街のためにできること」について、一人ひとりの考えや想いを伝え合いました。

 

「なぜ自分が、まちがくに参加しているのか。その想いを一人ひとりが改めて言語化することにより、モチベーションを高めながら、自身の考えやアイデアを形にするためのヒントにしてほしい」と、小野さんは語ります。

 

 

前回同様、5つのチームに分かれて3人組でワークショップを実施。

質問する人、話す人、記録する人、それぞれ役割分担をして、お互いの本音を伝え合いました。

 

 

一人ひとり想いを語ったところで、最後に一人一分ずつ、今日の感想やネクストアクションを発表!本校生のみなさん全員がマイクを握り、全員の前で意見を発表する機会は、これがはじめてのことでした。

発表の一部をご紹介すると…

 

「郡山って何もない場所だと思っていたけど、まちがくに参加することで“なんか楽しいことができそう”と思えるようになった」

「いろんなバックグラウンドを持つ人が集まり、一人ひとり異なる視点での話があっておもしろい」

 

 

「空き家を視察してチームをつくり、DIYしながら場づくりをしていきたい」

「郡山にはいろんな可能性がある」

「自分の想いを伝えられてよかった。自分がさらけ出すと、相手もさらけ出してくれる。そうするとお互いの課題が共有されて、新しい何かがはじまっていく予感がした」

 

 

「まちがくを民間レベルで引き継いでやっていきたい。」

「今日みたいに、どんどん自分の想いを発信していきたい。話せる仲間をつくることが第一だと思った」

 

 

というように、さまざまな声が挙がりました。

 

小野さん:まちづくりは、みんなでいきなり何かやろうとしても、話がまとまらないケースがほとんど。おそらく自然なのは、2人とか3人で意見が合致したものを少しずつ広げていくことではないでしょうか。自分がやりたいことを一人ずつ広げていけば、結果としてみんなを巻き込むことができます。だから、まずは自分のやりたいことを伝えたり、誰かと一緒にやってみたり、誰かのやりたいことを手伝ってみたりしてください。それがいつかは、みんなのやりたいことやアイデアにつながっていくのではないかと思います。

 

 

最後に、まちがく恒例の集合写真を撮って、この日の講座は終了!その後、「放課後」の時間では、本校生同士の交流を深めたり、小野さんに質問をしたりと、それぞれ語らいのひとときを過ごしていました。

 

郡山市イメージキャラクターの「がくとくん」がプリントされた壁紙がいい味出してる!

郡山市イメージキャラクターの「がくとくん」がプリントされた壁紙がいい味出してる!

株式会社散歩社 代表取締役
小野裕之 氏

1984年岡山県生まれ。中央大学総合政策学部卒。ソーシャルデザインをテーマにしたウェブマガジン「greenz.jp」を運営するNPO法人グリーンズの経営を6年務めた後、事業開発・再生のプロデュース機能をO&G合同会社として分社化、代表に就任。greenz.jpビジネスアドバイザー。 ジュエリーブランドSIRI SIRI共同代表。おむすびスタンド ANDON共同オーナー。下北沢BONUSTRACKを運営する 散歩社 代表取締役。発酵デザインラボ(発酵デパートメント)取締役CFO。