聴講レポート

2020.12.03

「こおりやま街の学校」4時限目 松田崇弥さん×松田文登さん

さまざまなジャンルのプロフェッショナルを招き、魅力的なまちづくりについて学ぶ「こおりやま街の学校」。受講者それぞれが主体となって郡山の魅力を多くの人に発信していくべく、毎回視点の異なるテーマのオンライン講義が繰り広げられています。4時限目の講師は株式会社ヘラルボニー松田崇弥さんと松田文登さんです。

 

 


 

一卵性双生児の松田崇弥さんと文登さんが立ち上げた株式会社ヘラルボニーは、知的障害を持つ方々のアート作品をモチーフにしたファッションブランドなどを手がける“福祉実験ユニット”。近年はさまざまなメディアでも取り上げられ、大手企業からのコラボも続々と進行しています。
そんな注目度の高いふたりの講義とあって、郡山に縁のある30名の本校生のほか、フランスからの参加者も含む約100名の聴講生が集いました。

 

岩手県出身の松田さん兄弟が、ヘラルボニーを立ち上げたきっかけは、4歳上の自閉症のお兄さんにあったそう。家の中ではごく当たり前の家族として接していても、一歩外に出ると周囲から「かわいそう」と言われたり、笑われたりする姿を見て、社会には「障がい者の枠組み」があると感じていました。

 

そんな社会をどうやったら変えていけるか考えていた崇弥さんは、ある日、訪れた花巻市の「るんびにい美術館」で障がい者の方が描いたアート作品に衝撃を受けます。

「アートを通して障がい者へのリスペクトが生まれる社会になったら、障害を個性として受け入れられる社会ができるのでは」

 

 

そして、全国各地の福祉施設とライセンス契約を結び、障がい者のアーティストの作品をモノやことや場所に落とし込んでいく活動を始めます。

 

社名はお兄さんがノートに書いていた謎の言葉から。本人に尋ねても正確な意味はわかりませんが、「言語化できないだけできっと意味はあるし、それを自分たちが言語化して社会に出すことで、一見価値がないと思われていることに新しい価値付けをしていける、そんな会社でありたい」とそのまま社名にしたそう。メンバーは松田さん兄弟のほか、ファッションデザイナーや通関士など個性豊か。身近に障害を持った家族がいたりと、思いを同じくする方が揃いました。障害のある方たちをあえて“異彩”と呼び、そこにある可能性を信じる、それがヘラルボニーが掲げる理念です。

ここで実際に松田さん兄弟が展開しているプロジェクトをいくつか紹介していただきました。

 


 

まずは、ファッションブランド「HERALBONY」の運営。障がい者が就労施設で作った商品が、クオリティに反して格安で売られていることに違和感を感じた松田さん兄弟が、「職人とコラボした商品をクオリティ高く出すことでアーティストへのリスペクにもつながる」との思いから、ネクタイやハンカチ、エコバッグなどを商品化。全国でポップアップショップを展開するほか、「地方から発信することに意味がある」と、今年8月には地元・盛岡市の川徳百貨店に常設店をオープンさせました。ファッション分野ではこのほか吉本興業とコラボした「DARE?」というブランドも話題となっており、商品は福島よしもとでも販売されております。

 



「全日本仮囲いアートミュージアム」は、工事現場などに設置される仮囲いにアート作品を掲示し、街角を“美術館化”するプロジェクト。デパートや駅などさまざまな場所が即席のミュージアムになり、街行く人に気づきや感動をもたらしています。さらに掲示を終えた作品は、バッグやブックカバーにアップサイクルされ、商品として販売されるのだそう。

 

 

障害は“欠落”ではなく“個性”。だからこそ、「苦手なことをできるようにするのではなく、得意なことにお金が流れていくような仕組みをプレゼンしたい」と松田さんたちは考えています。

 

「障害、福祉、アートと聞いた途端に自分には関係ないと思う人も多いはず。そういう人たちへのタッチポイントをいかに増やすかを常に意識しています。お客さんには商品じゃなくヘラルボニーという思想を買ってもらっているという考えで、思いに共鳴してくれた皆さんと一緒に世界を作っていきたいんです」

 

 

続く質疑応答の時間でも活発に意見が交わされました。

 

・アーティストの発掘は?

「発掘というより出会いですね。ご紹介いただいて会うことが多いです。今は全国の16位の社会福祉法人とライセンス契約を結んでいます。アーティストとも支援や貢献ではなく、ビジネスパートナーとして接しています」

 

・商品化する作品の選び方は?

「障害を持つ方のアート作品には丸をひたすら描き続けるなど繰り返しの表現が多いんです。上手な絵よりそういう独特の才能をこそ面白がっていきたいです」

 

身近な違和感にきちんと向き合い、商品やプロジェクトとして発信しているヘラルボニーのおふたり。一見当たり前のものをユニークで面白いものへと変換し、新たな価値を生む仕掛けには、多くの受講生が刺激を受けたようでした。

 


 

ここからは、本校生に向けて行われた第2部の講義の模様をお伝えします。講義の内容を受け、興奮冷めやらずといった本校生の皆さんから、さまざまな質問が飛び交いました。

 

・福祉関係の仕事はNPOや福祉法人が多い中、なぜ株式会社に?

「設立当初から知的障害のイメージを変えるというのが大前提ではあったものの、ビジネスとして成立させたいという思いがあって。国の助成や補助があるのもとてもありがたいことだけど、営利組織としてどこまでできるかの方にワクワクしました」

 

・この事業で「行ける!」と思えたきっかけは?

「単純にやりたいという気持ちが爆発したんだと思います(笑)。とはいえ、粗利や利益のこともきちんと計算した上で始めています。ふたりで起業したい思いは昔からありました」

 

・チーム作りのポイントは?

「面接でも社会貢献したいという人もたくさん来ますが、仕事は自分の不全感を埋めるためにするものではないので、それよりも自分がワクワクできることをしたいと思って来てくれる人を採用するようにしています」

 

・けんかする?

「します(笑)。でもひどい言い合いをしても1時間後には仲良し。なんでも言えるのが兄弟の強みですね。今は東京と盛岡と離れて業務に当たっていますが、どちらかがあげたセンタリングをどちらかがゴールするような瞬間もあって、一緒にいるよりも効率がいいと思っています」

 

 

・企業コラボがとても多いですね。

「今はようやく増えてきたところ。最初はまったく仕事がなくてアルバイトなどもしていました。営業活動ではSDGsの取り組みやリクルーティングにつながること、アートを入れ込むことで売り上げに直結することなどを戦略的に話すようにしていて、ちゃんとアーティストにお金が回り、福祉に還元されよう透明性を大事にしています」

 

・福祉とファッションというまったく違うジャンルのものを組み合わせる発想の源は?

「実はふたりともヒップホップが好きで。ヒップホップってマイノリティから主流文化に反発するようなところがあって、そういう逆張りの姿勢は根底にあるかもしれませんね」

 

また、「収集日が守られない近所のゴミ捨て場にも活かせそうな取り組みだと思った」「社会貢献よりも、ワクワクしながら仕事ができる人を採用するという考え方に刺激を受けた」といった感想も。自閉症のお子さんを受け持った経験のある英会話講師の方からは、「健常者と障がい者というクラスの分け方や大人のあり方が問題。純粋に違いを認め合える社会になっていけたらいい」といった、まさにヘラルボニーの考え方に共鳴する意見もありました。

 

最後にふたりからは「近所にある福祉施設を検索して足を運んでみる」という宿題が出され、講義は終了となりました。組織作りやプロジェクトの進め方など、具体的かつシビアな話にも踏み込んだ4時限目は、本校生に新たな気づきをもたらしてくれたようです。

 

 

さらに、前回の講義を受け、一部の本校生の間で「カリー寺」の構想が始まっていたりと、オフラインでのつながりも活性化しつつある様子も見られ、ますます今後が楽しみな「こおりやま街の学校」。果たして、次回はどんな展開が待っているのでしょうか?

文:渡部 あきこ