聴講レポート

2020.12.23

「こおりやま街の学校」6時限目 伊藤孝仁さん

さまざまな分野のプロフェッショナルから、魅力的なまちづくりについて学ぶ「こおりやま街の学校」。6時限目の講師は有限会社AMP/PAM(アンパン)代表でアーバンデザインセンター大宮(UDCO)デザインリサーチャーの伊藤孝仁さんです。

伊藤さんのお仕事は建築家。建物の設計だけではなく、その背景に広がる環境をリサーチし、これからの都市や地域、建築の姿を探求していくことをテーマにしながら、各地の街づくりや場づくりに関わっています。

 

 

今回も冒頭は郡山クイズから。

「郡山にあるものは?」「姉妹都市のある国は?」「郡山といえば!な魚とは?」の3問が出題され、2問目以外はほとんどの方が正解。実は郡山の姉妹都市はブルメン市というオランダにある街で、郡山市の発展のきっかけを作った安積疏水を設計した技師がオランダ出身だったことから選ばれたそうですよ!

 

 

そんな街と建築にまつわるトリビアからスタートした今回の講義。

伊藤さんが設定したテーマは「空間の発酵」です。建築と発酵、一体どんなつながりがあるのでしょうか?

 

 

伊藤さんは建築家でありながら、建物を建てて面積を増やすよりも、改修や減築で面積を減らすようなプロジェクトを多く手がけているそう。「自然には生産者と消費者と分解者の3つの役割があり、実は分解者がいてこそ植物が育つ土壌が整います。私がやっている建物の解体や改修は、分解にとても近い」と語る伊藤さん。分解者、つまりは菌や微生物の役割と重ね合わせ、さまざまな人が集まり、化学変化を生み、訪れた人が何かに出会う予感がある場所を“発酵する空間”と定義し、そんな空間を作り出すことを目指して活動していると言います。

 

 

では「空間の発酵」はどんな時に起こるのでしょうか。伊藤さんがこれまでのプロジェクトの事例から教えてくれました。

 

1:主役をスライドして考えてみる

例えば「逆さ地図」や地形の断面図のように、見慣れたものも見方を変えることで新たな関係性などが見えてくるとのこと。最近見て感動した地図は、転入女性のためのWEBサイト「tenten」(https://tenten-f.info/)が作った地図(https://tenten-f.info/tentenmap/だそうで、伊藤さんはこの地図に“生きた視点”を感じたと言います。

 

 

また、住宅地の空き家を改修してシェアハウスを作った「CASACO」(https://casaco.jp/)というプロジェクトでは、主役を家そのものではなく「東ヶ丘」という場所に据え、実際に暮らしながら街の歴史や地形を調べ、地域に馴染む建物とはどんなものか、ここで何ができたら楽しいかを考えていったそう。「デザインだけではなく、環境を主役にしてみるとまた違った流れが見えてきます」。

 

 

2:何が「資源」かを考えてみる

「CASACO」を作っていた際、町内の坂道に敷いてあった石畳が剥がされることになり、それを譲り受けエントランスに敷き詰めたり、近所の取り壊しが決まった空き家から建具をもらってストックし、設計材料にしました。

 

 

「自然豊かな場所じゃなくても、住宅地の中にも資源はあります。視点を変えることが大切」と伊藤さん。

 

3:「気まずさ」から考えてみる

人が集まる場は注意しないと内輪な感じが出てしまいがち。「CASACO」では、建物の中に1人でもいられる空間、2、3人で集まれるスペースといろんな重心を置いたほか、壁を取り払い、道行く人と目線が一緒になるような仕掛けを工夫しました。その結果、地域の主婦も訪れる場になったそう。「街の人々のスキルでこの場所がより発酵していく、豊かに使われていく」ことを実感したと言います。

 

 

また、泊まれる出版社「真鶴出版」(https://manapub.com/)の設計に関わった際は、「背戸道」という生活のための道が張り巡らされていることに着目し、入り口をたくさん作り、道との接続が容易で他者が入り込みやすい空間を仕立てました。町歩きをしながらの資源探しも続行し、壊される予定の郵便局の窓を譲ってもらったり、港に落ちている碇を地元アーティストの手でドアの取手に加工したりして、建物に生かすこともできたそう。

 

 

どちらも地元の協力がなければできなかったこととして、「資源とスキルを編み直す建築」と呼ぶ伊藤さん。「偶然の出会いを期待して時には待つこと、委ねること。でも。土地の関係を知らないと委ねることもできないので、街を知り人と出会うことが大切」と話してくれました。「真鶴出版」ができたことで、真鶴には移住者が増え、街がどんどん面白くなっていると言います。

 

 

そんな伊藤さんに受講生から「町を俯瞰で観るコツは?」と質問が。

「もともと地図や地形が好きでよく見ています。どこかで何かをする場合、その場所にフォーカスしがちですが、引いてみると見えてくるものがあります。その時に、変わらないものは何か、その場所の生活を支えているものを考えることが大事」とアドバイスしてくれました。

 

現在、伊藤さんは郡山市の「Blue Bird apartment」(https://bluba.jp/)の2つめの拠点となるビルを改修中。どんな空間ができあがるか、期待して待ちましょう!

 

 

ここからは、本校生に向けて行われた第2部の講義。伊藤さんの話す建築と街づくりの関係に刺激を受けた受講生からまざまな質問が寄せられました。

 

 

Q:福島の印象は?また郡山ってどんな街ですか?

「福島県はひとつの県なのに、ちょっと移動するだけで雰囲気が変わります。関東平野は割と似た地域が多いのでとても興味深いです。特に、猪苗代湖を真ん中にみると会津との関わりや郡山がなぜ発展したのかも見えてきて面白いですね。郡山は街中こそ建物が多いですが、少し行くと公園や水辺があって緑が豊かな印象です」

 

Q:“発酵”に必要な要素とは?

「やはり新しく入ってくる人の存在は大きくて、その人が入りづらい雰囲がないのが大切ですよね。かといって真正面からウェルカムではなく、押し付けがましくないウエルカムな作法があるのがいいかなと思っています。あと建物に関しては、『こんなことしてみたい』とかやりたい気持ちを起こさせる場所であること。公民館のような事務机が並んでいるような場所では、やはり気分が上がりませんよね」

 

Q:そういった場所は作ろうとして作れるものですか?

「設計者がなんでもデザインして提供するのは違うと思っています。「CASACO」では運営にも関わっていたのですが、思い通りにいかないこともあり、ルール作りや空間だけではないマネージメントも必要だと気づかされました。今は、空間を作って終わりではなく、そこに集う人が変わっていったりその後のプロセスにも興味があります。実験を繰り返して積み上げて、チャンネルが増えて町が変わっていく、そんな建築のいろいろなフェーズに持続的に関わりたいと思っています。」

 

 

Q:地域の人に関わってもらうためにはどうするのがいいですか?

「人は自分がサービスを享受する側にいる時より、誰かに何かをしている時のほうが生き生きすることに気づいたんです。そのための隙を作り、何かしたい人のための土壌を作るのが大切だと感じました。支えますよだけじゃなく、支える側に回ってもらう回路をどう作るかということですね」

 

Q:自然の土地を生かす建築は大事?郡山で作るとしたら何ができる?

「たとえば地形の起伏の豊かな場所はポテンシャルがある一方、土地の力が強すぎて災害の危険もあります。かといってリスクを無くせば自然を生かすことはできないので、どういう距離でリスクと向き合うか、どちらも睨みながら物事を考えていくのが大事ではないでしょうか。また、全部建築や土木などの構築物で解決するのではなく、文化や慣習、人の振る舞いが大事だと思います。

郡山は分水嶺を超えて猪苗代湖と繋がったところにポテンシャルを感じるので、その面白さを魅力につなげると、京都と琵琶湖のような関係ができあがりそうだなと感じています」

 

 

Q:空き家活用での地域のニーズはどのように掴めばいいですか?

「地域のニーズを求めてしまうととにかくいろいろな意見を聞こうとしますよね。ただそれは、その場所によく来る人の意見であって地域のニーズとは言えないのではないかと思うのです。何を信頼するかというと、その場所の変わらないもの、特有のもの。その場所の住人が普段何をしているか、どこに買い物に行くかとか、事実を並べると重要なことが見えてきたりします」

 

 

建物が街や人々の関係にもたらす変化のお話は、まさに“発酵”のメカニズムそのもの。街づくりや場づくりに必要な目線が見えてくる、充実した講義でした。

 

ここで伊藤さんから宿題を発表。

 

「郡山の気になる場所の写真を2枚撮ること。1枚は虫の目線で、1枚は鳥の目線を意識して、写真を撮る経緯などを添えること」

 

最後は恒例となったマリンバのチャイムで終了。次回はいよいよ年内最後の講義です。お楽しみに!

 

文:渡部 あきこ