MACHIGAKU REPORT まちがくレポート

【4時限目】
ローカルだからできる、ローコスト、ローリスク起業のススメ

渡邊 享子 氏(講師)

2021.12.18

 

「まちがく」4時限目の講師は、宮城県石巻市を拠点に、空き家を活用した場づくりを展開している株式会社巻組の代表、渡邊享子さん。築年数が経っていたり、立地が悪かったりと、資産価値の低い物件を買い取って最低限のリノベーションを施し、クリエイティブ人材を対象に賃貸運用を行うことで街のにぎわいづくりを後押ししています。今回は空き家の利活用をテーマにしたまちづくりや、ローカルならではのライフスタイルのあり方などについて教えていただきました。

 

○講師プロフィール

渡邊 享子 氏

株式会社巻組 代表取締役

 

2011年、大学院在学中に東日本大震災が発生、研究室の仲間とともに石巻へ支援に入る。東日本大震災をきっかけに石巻へ移住。2015年に巻組を設立。資産価値の低い空き家を買い上げ、クリエイターをターゲットとした大家業をスタート。シェアやリユースを切り口に地方の不動産が流動化する仕組みづくりを模索中。2016年、COMICHI石巻の事業コーディネートを通して、日本都市計画学会計画設計賞受賞。2019年、日本政策投資銀行主催の「第7回DBJ女性新ビジネスプランコンペティション」で「女性起業大賞」を受賞。

 

 

地方は、はじめられる隙間がたくさんある。

 

10月からスタートした「まちがく」もついに終盤。なんとこの日はこの冬一番の大寒波が到来し、郡山は朝から雪が積もっていました。まちがく恒例となったラジオ体操で身体も空気もあたたまったところで、講師の渡邊さんが登場!

 

 

2011年に石巻へ移住し、2015年に巻組を設立された渡邊さん。資産価値が低い土地や物件を買い上げて巻組がオーナーとなり、賃貸として売り出す「空き家活用」を軸に活動を展開されています。

 

渡邊さん:「古民家いいよね」って考える人は多いけど、実物を見ると不便だし、絶望する人もいるんですよね。わたしは必要最低限の設備で暮らしていく心地よさや、古いものを活かす良さもあると思っているんですが、そういった価値観はまだ浸透していないし、便利で快適なおうちがいいという人が多いのではないかと思います。わたしたち巻組は空き家活用を通して、実は必要じゃないものを削ぎ落として暮らす心地よさを共有できるコミュニティづくりや、家のあり方を見つめなおす活動に取り組んでいます。

 

 

渡邊さん:地方の魅力はひと言で表すと、生存確率が高いこと。自然豊かということは、それだけ資源や利用できるものがたくさんあるということです。人口が少ないからこそ、いろんなことをはじめられる隙間がたくさんあるのかなと思っています。そんなときに、自分はどんな価値を創造できるのか、自分がどう心地よく生きるか。それらを考える機会になればと考えています。

 

 

地域のライフスタイルをデザインする。

 

石巻市の人口規模は、郡山市のおよそ半分。東日本大震災が発生したときは震源地からほど近く、甚大な被害を受けました。全壊家屋は20,000戸を超え、住む場所を失った人がたくさんいたそうです。そこで、市内に新築住宅が整備されたものの、なぜか13,000戸もの空き家が出てしまったそう。その原因を、渡邊さんはこう語ります。

 

 

渡邊さん:たとえ住む場所があったとしても、街にライフスタイルがなければ、人口は流出し続けます。その街で個人のしあわせがどうあるか、ライフスタイルをどうデザインするか。わたしたちは、コロナにより社会が変わっていくなかで、不動産の仕組みそのものを見つめなおすことが重要だと考えました。

 

 

渡邊さん:空き家活用って、街の象徴的な建物をつくって集客施設にしようというケースが多いと思います。でも、それだけでは空き家問題は解決しません。さらに、巻組で扱っているのは、立地が悪く、築年数も数十年経っているような絶望的な廃屋。

 

 

渡邊さん:売るにもお金がかかるし、壊すにもお金がかかる。じゃあ、どうすればいいのかを考えるのが、巻組の仕事です。資産価値が低い物件を巻組で買い上げて最低限リノベーションし、賃貸運用をするというシンプルなビジネスモデルを実践しています。

 

 

 

クリエイティブな人材を巻き込む。

 

ライフスタイルをデザインするヒントとして、渡邊さんが挙げたのは「クリエイティブ人材を巻き込む」こと。渡邊さんが言うクリエイティブ人材というのは、なにかを生み出す・つくる活動をしている人のことです。

 

渡邊さん:絶望的な廃屋でも、住みたいっていう若者もいます。それがクリエイティブな人材。なにかを生み出す人、能動的にやりたいことがある人は、ネガティブをポジティブに変換するちからがあるんです。なかには、地域の課題解決につながるようなソーシャルビジネスに関心を持つ人もいます。実際、巻組が扱っている物件に、現代アートや洋裁など、ものづくりをする人が入居してくれました。

 

 

渡邊さん:とはいえ、それだけで食っていくのは難しい場面も。そんな人は、石巻は漁業が盛んなので季節労働で漁業の手伝いをしてミニマルな生活を送りながら、やりたいことをやるというライフスタイルを実践しています。すると石巻でクリエイティブなライフスタイルが確立されて、しかも漁業もうるおうという、いい循環が生まれているんです。

サラリーマンを辞めて地元企業に勤める方法もいいけれど、東京で稼げる仕事をやって、週末は石巻で過ごす生活をしてもいい。自分なりに生きていける人の受け皿になれる住宅づくりをすると、独自のライフスタイルが確立されていくんだと思います。巻組は建築や不動産というテーマから、自分の課題意識に向き合い、能動的に創作する人を応援していきたいです。わかりやすく言えば、フリーランスや複数の職業を持つポートフォリオワーカーをしながら、楽しく自分らしいライフスタイルを送っている人。そういった人が、地域の関係人口にもなり得ると考えています。

 

 

 

地域を内側から刺激するプラットフォーム

 

近年は、単に賃貸物件として運用するだけでなく、クリエイターの展示会場として活用したり、他の都府県にある施設や拠点と連携してクリエイティブ人材向けのプラットフォームを展開したりと、全国に活動の場を広げている巻組。石巻で滞在制作した作品を、原宿にある商業施設で展示する機会もあり、クリエイターのチャレンジの機会を広げています。

 

 

渡邊さん:都市部でアーティスト活動をされている方のなかには、アルバイトをしながら創作活動をしているという方も多くいます。このコロナ禍で職を失ってしまったという声を聞いて、石巻には漁業をはじめとする職も、物件もあるわけだから、石巻にアーティストを呼ぼうと考えました。そこで生まれたのが「Creative Hub」です。石巻を訪れたアーティストは地元産業を手伝い、生活費を稼ぎながら創作活動に取り組むことができます。しかも、地域の方々との交流から生まれる作品もあって、アーティストにとっても、地域の人にとってもいい刺激になる。地域を内側から活性化させることができるのではと、期待しています。

 

 

これにとどまらず、ワーケーション向けのプラットフォームも展開しているそう。3万円払うと、1年間誰でも巻組のコワーキングスペースを利用することができます。これなら、都心で働いている人でも石巻にふらっと足を運んで仕事ができたり、地元の人にもオフィスとして使ってもらえたり。実際に、絵を描く場所として活用されている地元の人もいるそうです。

 

 

渡邊さん:こうやって、地域の人と外から来た人が、フラットな関係で一緒にいられることが重要だと思います。価値交換できる仲間が集い、クリエイティブな活動を通して街に関わっていくと、わたしたちが考える「ライフスタイルを創造するコミュニティ」ができていくのではないかと考えています。

 

 

 

郡山にある空き家を、どうやって“わくわくの舞台”にする?

 

午後は、5時限目でのチームプレゼンにむけてアイデアを書き出すワークショップ。テーマは、「遠藤さん家を“わくわくの舞台”にするアイデアを考えよう!」というもの。遠藤さんとは、チームカフェオレに所属しているまちがくの本校生です。普段は住んでいない持ち家が郡山にあるとのことで、みんなで利活用の方法を考えることになりました。

 

 

各チームには、遠藤さんちの間取り図や広域の地図などの資料を配布。遠藤さんちがある地域の特徴(魅力や課題)を書き出したり、「遠藤さんちがこんなふうになったらいいな」という妄想を広げたり、チームごとに利活用のアイデアを考えていきました。

 

 

チームによって意見はさまざまですが、「川が近い」「庭が広い」「田んぼに囲まれている」といった地域や家の特徴をもとに、地域の課題解決につながるアイデア、もしくは地域の魅力が底上げされるようなアイデアを練っていきます。

 

「田んぼに囲まれていて農業体験ができそう」

「クリエイター向けのシェアハウスにむいてそう」

「住民主体で運営する公民館ができそう」

など、意見が活発に飛び交っていました。

 

 

さて、ここからはチームで生まれたアイデアを発表。今回出たアイデアをもとに、5時限目ではチームプレゼンを行います。

 

チームままどおる:わたしたちが考えた企画のタイトルは「ユニバーサルスペース安積」。略して「USA」です。郡山に来る外国人観光客や大学生を対象に、地域の魅力を伝える場や泊まれる宿として活用できたらと考えています。周辺の畑でとれた野菜でつくったピザやワインをふるまったり、郡山のイベント情報を発信したりをイメージしています。

 

チームカフェオレ:企画タイトルは「アーバン百姓シェアハウス」です。都市部でサラリーマンをやっているけど、違う仕事をやってみたり農業をやってみたり。ここに住む人の生きる選択肢が増えることをめざしたシェアハウスを考えました。居住者は、20〜30代の単身を中心に、本業をしつつも、土日や空き時間で土をさわって野菜を販売したり、プロダクトをつくったりと、この地域から新しいライフスタイルをつくっていきたいと考えています。

 

 

チーム薄皮饅頭:タイトルは「鯉に恋する安積の家」です。県外から訪れた人をターゲットに、土日限定の体験型宿泊施設を開きたいと考えています。この施設がめざすのは、新規就農者と郡山の人口増加。地元農家さんにご協力いただき、宿泊者は農業を教えてもらいながら滞在します。建物1階を可動式のイベントスペースとし、日大生によるプログラミング教室や、高齢者による将棋教室などを行います。2階は民泊として、リノベーションします。

 

チームクリームボックス:タイトルはまだ決まっていないのですが、子育て完了世代が、現役子育て世代を応援するような場所をつくりたいと考えました。ここは自然豊かな地域でありながら、市街地にも足を運びやすく、子育てしやすい環境だと思います。多世代が関わり合いながら、地域の循環をつくっていきたいです。具体的な中身が決まっていないので、最終プレゼンまでに考えたいと思っています。

 

 

チームゆべし:今年はコロナ禍ということで、制圧や制限がたくさんあった1年でした。それらを少しでも解除し、自分がやりたいことを実現できる場にしたいと考えています。テーマは、「自分自身のリミットを解除する家」「自分のやりたいことを実現する場」「暮らしやすい環境をつくる」です。具体的な利活用の方法やマネタイズ、運営者などは決まっていません。地域住民や安積町エリアのニーズを汲み取りながら、アイデアを練っていきたいです。

 

およそ2時間という限られた時間のなか、チームそれぞれの視点が光るアイデアが発表されました。

 

渡邊さん:素晴らしいアイデアを出すことよりも、自分がワクワクすることを考えついて、「自分がやりたくて仕方がない!自分がやっちゃう!」みたいな人が、チームに一人でも出てくることが大事だと思います。

 

 

ワークショップの後は、放課後の時間。最終プレゼンにむけて、役割分担をしたり、アイデアを練ったりと、まだまだ議論が続くチームがほとんどでした。さて、どんなプレゼンが繰り広げられるのか…!?いよいよ次回、まちがく最終回です!

 

株式会社巻組 代表取締役
渡邊享子 氏

2011年、大学院在学中に東日本大震災が発生、研究室の仲間とともに石巻へ支援に入る。東日本大震災をきっかけに石巻へ移住。2015年に巻組を設立。資産価値の低い空き家を買い上げ、クリエイターをターゲットとした大家業をスタート。シェアやリユースを切り口に地方の不動産が流動化する仕組みづくりを模索中。2016年、COMICHI石巻の事業コーディネートを通して、日本都市計画学会計画設計賞受賞。2019年、日本政策投資銀行主催の「第7回DBJ女性新ビジネスプランコンペティション」で「女性起業大賞」を受賞。