KORIYAMA TOWN SCHOOL.

こおりやま街の学校 2023

SEMINAR

3時限目

10月7日終了しました

ビックアイ7階 市民交流プラザ 大会議室
(郡山市駅前2丁目11−1/Googlemaps)

ボトムアップ
編集論

町がおもしろくなるきっかけはなんだろう?と考えたら、あくまで個人の「やってやるぜ!」の熱量に尽きると思います。同じエリアに3人のボトムアップな仕掛けが生まれたら、旅行者に対して「この町はおもしろいんだな!」と感じてもらえる。居心地の良いカフェあって、土地の文脈を反映したセレクトショップがあって、顔の見える宿がある…そんな旅の経験ありません? 点を集めて、面で見せるのが編集なのだとしたら、やっぱり実践者を増やすことが欠かせない! というわけで今回の講義では、経済合理性と非合理な文化訴求を両軸で考えるような「ボトムアップ編集論」をみなさんと一緒に雑談できたらと思います。答えはない。現場で揺れ続ける葛藤にヒントがある!

【講師】徳谷 柿次郎

株式会社 Huuuu 代表取締役
どこでも地元メディア「ジモコロ」元編集長

1982年(昭和57年)、大阪府生まれ。株式会社Huuuu代表取締役。新聞配達と松屋のアルバイトでコツコツと積み上げる労働の原点を培う。二度目の上京で編集プロダクションに拾われて、社会人の喜びを知る。その後、ウェブ系のコンテンツ制作会社の創業期に転職。企画、ディレクション、バックオフィス全体に関わって、小さな会社の仕組みを学ぶ。35歳で独立。長野県に移住をして、全国47都道府県行脚がスタート。身体性を軸とした都市とローカルの関係性を考え続けている。主な仕事に「ジモコロ」「Yahoo! JAPAN SDGs」「SuuHaa」「OYAKI FARM」「DEATH.」など。40歳の節目で「風旅出版」を立ち上げて自著「おまえの俺をおしえてくれ」を刊行。長野市では「シンカイ(休止中)」「MADO / 窓」「スナック夜風」を営んでいる。座右の銘は「心配すな、でも安心すな」。


REPORT

「こおりやま街の学校2023」の3時限目は、「ボトムアップ編集論」がテーマ。長野県を拠点にメディア運営やコンテンツ制作、場づくりなど、編集を軸に幅広くローカルプロジェクトを手がけている株式会社Huuuuの代表・徳谷柿次郎さんを講師にむかえ、地域に新しい風を吹き込むプロジェクトのご紹介や、柿次郎さんが大切にしている姿勢などを教えていただきました。


講師の徳谷柿次郎さん


枠にとらわれない、新しい視点やおもしろい切り口を活かしたプロジェクト。

徳谷さんが代表を務める「Huuuu」は、「全国47都道府県を旅する編集チーム」。ライター・編集者のメンバーを中心に、全国のクリエイターや生産者、職人、地方行政と関係を築きながら、webメディアや紙媒体などのコンテンツ制作やプロジェクトづくり、場づくりなどに取り組まれています。

「Huuuu」の企業理念は「人生のわからない、を増やす」だそうで、その背景や込められた想いが徳谷さんのnote記事にまとめられています。「どういう意味?」と気になった方は、ぜひ記事を読んでみてくださいね。

「人生のわからない、を増やす」を企業理念にした理由



さて、3時限目のテーマは「ボトムアップ編集論」。

徳谷さん:僕が思うボトムアップとは、下から突き上げるようなイメージです。それに対して、政治や行政が決めたことをみんなで取り組むのがトップダウン。両方大事ですが、ボトムアップという考え方をどう持つかが、街で何か活動をはじめるうえで大切なことだと思っています。

この7箇条は、徳谷さん自身も心得ている信条のようなもの。特に、徳谷さんが強調されたのは「思い込みや常識に囚われない」ということでした。なぜなら、みんなが真実だと思い込んでいるものや常識は、時代とともに移り変わっていくものだから。あまり鵜呑みにしない方がいい、とお話しされていました。

こうした「ボトムアップ」の考え方をもとに、徳谷さんがどのような活動をされているのか。
「Huuuu」が拠点としている長野市での取り組みを教えていただきました。



長野県の移住総合WEBメディア
「SuuHaa」

長野県庁、信濃毎日新聞社と共同運営している移住メディア。「SuuHaa」は「スーハー」と読み、長野の気持ちいい空気を吸い込んで吐く様子を表しています。

徳谷さん:本来であれば、「移住」っていうキーワードが頭に付くべきなんですけど、行政の方に交渉して「移住」という言葉を使わない移住メディアをつくりました。長野に移り住んだ人や、長野にUターンした人に話を聞いてみると、「長野は景色がよくて呼吸しやすい」という人が多くて。そこから、「長野の空気を深く吸い込もう」というコンセプトにしたんです。

ポイントは、移住に関する情報を網羅することではなく、おもしろく変わった切り口で長野を紹介していること。例えば、葛飾北斎を移住者と捉えた記事を掲載するなど、一般的な移住メディアにはないユニークな視点が散りばめられています。こうした取り組みから、従来は年間に数件しかなかった資料請求の数が、「SuuHaa」をきっかけに500件近くに増えたそうです。また、「SuuHaa」は2021年度のグッドデザイン賞を受賞しています。



シシコツコツ

DX推進を目的とした人材誘致・獲得のプロジェクト。「シシコツコツ(孜孜忽忽)」とは、他のことを考えず、目的を果たすためだけに注力すること。「孜孜」は熱心に努力すること、「忽忽」は他を顧みないことを意味しており、長野県民の精神性が表現されています。

徳谷さん:長野県からIT系の企業や人材を県内に増やしたいということでDXのイベントを開催してほしいと依頼をもらったんですが、「DX」という言葉を使いたくないと思いました。長野に移り住んでITの仕事をしたいと思う人は、ITの仕事がしたくて長野に来るのではなく、長野に来て、ついでにITの仕事がしたいと思っているはず。だから、DXというキーワードが前に出てくるような伝え方ではなく、20代〜30代の感性をつかめるような表現を心がけました。

このイベントでは、山奥で焚き火をしながら自分の弱みを書いた紙を燃やしてみるなど、一般的なDXのイベントにはないおもしろい企画が行われています。



OYAKI FARM

長野名物「おやき」の老舗「いろは堂」のファクトリー&ショップの新設にあたり、クリエイティブ全般のプロデュースを「Huuuu」が担当したそうです。

徳谷さん:僕たちは「OYAKI FARM」という名前やロゴ周りのビジュアル制作、PR、SNS運用などを担当させてもらっています。メディアの露出もうまくいって、手軽に買えるおやきが3時間待ちの行列ができるほどでした。おやきって、長野にとってはシンボル的な食べ物。デザインや見せ方を変えるだけで、生産ラインが追いつかないほどの反響があり、僕たちにとっても手応えのあったプロジェクトです。


長野に、新しい風を吹き込む場づくり。

ここからは、「Huuuu」が自社事業として展開している場づくりやプロジェクトの紹介。

徳谷さん:長野で何をしようと考えた時に、「Huuuu」っていうよくわからない編集の会社が長野にあっても、みんなどう声をかけたら良いのかわからないんじゃないかなと考えて、お店をはじめることにしました。こんな風に何かをはじめる時は、まずは「自分が好きでやりたいこと」であるかどうかが大事。そして、それが「街にあったら絶対いいこと」であれば、やってみる。そうやって最初にできたのが「シンカイ」という場所です。

「シンカイ」は、もともと金物屋さんだった場所。当初は学生が住み開きをしていましたが「Huuuu」が運営に関わるようになり、イベントスペースやお土産ショップとして営業をスタートしました。「Huuuu」が全国で取材したプレイヤーが立ち寄る名所になったり、地域の若者とおもしろい大人が交流するきっかけが生まれたり、「シンカイ」を通じて「Huuuu」を知る人が増えたり、出入りしていた若者が長野県に移住してきたり。さまざまな広がりを見せています。※現在は休業中

徳谷さん:「シンカイ」をやることによって、これまでは「Huuuuの柿次郎さん」だったのが、「シンカイをやってる柿次郎さん」という風に認知されるようになりました。場があることによって、街での信頼を少しずつ貯めることができたのかなと思います。


次にご紹介いただいたのは、「Huuuu」が運営するコミュニティオフィス「MADO」。コロナ禍を経て、「Huuuu」のオフィスをつくろうとはじまったプロジェクトですが、ただスタッフが働く場所というだけでなく、移住者や近隣の学生が行き交う場として機能しています。

徳谷さん:「Huuuu」って、風を意味していて。その風の会社が窓(MADO)を開けて、移住者や街の人との交流を生む「コミュニティオフィス」にしようと運営をはじめました。ここは仕事の効率や生産性を高める場所というよりは、週に2〜3回来て、ここに集まっている人とのおしゃべりや交流を楽しめる場所であれば良いなと思い、会費は6,000円にしました。6,000円であれば、通わなくても後ろめたさを感じにくいだろうし。「MADO」に来て仕事しながら、雑談の中で街の情報を取り入れたりして。今は会員が30名いて、「Huuuu」としてのオフィス代が実質0円になっています。


最後に事例としてお話しいただいたのがスナック「夜風」。昼間のランチ営業にはないディープなコミュニケーションが取れるような場所として営業されています。

徳谷さん:長野には20代の若者が溜まれるような場所がないなと感じていて。若者の悩みや未来に対する不安が払拭できる場があればいいなと思いました。そこに大人がまじって、斜めの関係性で酒を交わしながら話せたらいいなと。運営にあたっては、長野は好きだけど仕事がないから移住できないと言っていた東京在住の若者に店長になってもらい、その店長が好きなDJや古着屋などのカルチャーを繋いでもらいながらイベントを開催したりしています。


見返りを求めない。街に必要な文化的投資を意地で続ける。

徳谷さん:「Huuuu」は「徳のセンタリング」という言葉をカルチャーとして大事にしています。センタリングは、遠くに飛ばすということ。徳のセンタリングって、いつ返ってくるのかわからないものです。でも、いろんな土地や人を横断しながら、いつか戻ってきたらいいなという想いで、僕は飛ばし続けるようにしています。それは、目先の利益を選ばずに、街に必要な文化的投資を「意地」で続けるということ。「シンカイ」を5年営業したことも意地ですし、スナック「夜風」も利益構造的には負担は大きいけども、街の人たちの関係性を深める装置になっています。僕たちはメディアが本業なので、そこで得た利益で長野に興味を持っている若者を雇用して、ミツバチのように全国を飛び回りながら、そこで得た価値を長野に還元する循環をつくっていく。そのためには、清濁併せ呑みながら、作るものを妥協しないで、世代問わずコミュニケーションをとって、情報発信の手数を怠らないことをスタッフにも口すっぱく伝えています。

徳谷さん:これは僕の考え方で、「まちづくり」の場で言うのも…という感じですが、「まちづくり」を主語にしないこと。自分のためにやったことが、結果的に街のためになっている方がいいんじゃないかなと思います。最近、「私たち」という主語をよく見かけますが、「私たち」を「社会」と捉えてしまって、「社会のために何かしなきゃ」と言って活動をはじめた若者が、続かないまま疲弊していくのを見聞きします。「私たち」は、「社会」ではなく「自分」のこと。自分のためにやることが、お店をやるにしても、事業をはじめるにしても、理想的ではないかと思います。

本校生の声

おもしろい大人に会いたくて、
群馬県から来ました。

群馬県から参加
松元祐実
さん

子育てを通して、子どもたちにおもしろい大人の生き方や考え方を伝えたいと思い、前々から徳谷さんの著書や記事を拝読していました。今回、初めて「まちがく」に参加したのですが、郡山に徳谷さんが来ると知って、自宅がある群馬県から泊まりがけで来たんです。本や記事では語られていない一歩踏み込んだお話を聞くことができて、いろんな学びがありました。例えば、「目先の見返りは求めない」というお話。子育てしていると、ついつい子どもたちの反応を気にしてしまうのですが、10年後に返ってきたらラッキーくらいの気持ちでいようと、母としての姿勢も見つめなおすことができました。